ツールド大●境レポート   −チーム「両手に余る花 (?)」の巻−

◆9月某日◆
 清文さんから久しぶりの電話。11月にMTB&ランのアドベンチャー系イベント(闇)をやるとのこと。その名も「ツールド大●境」。M氏と私も闇ラリーちゃりバージョンを開催すべく去年から候補地を検討していたのだが、諸々の事情でのびのびになっているうちに先を越されたらしい。何はともあれこんな怪しさ満開のイベントを見逃す手はないので、とりあえず出場を即答しておく。
 メールで届いた仮レギュレーションによれば、4人1組でのチーム参加となっている。足を引っ張る役はイヤなので、すぐにM氏とは別チームを編成(レディースで揃えるのもいいなぁ)することに決め、都合2チームのメンバー探しを始める。
 イトウヒロコとK領くんからすぐに参加OKの返事があったものの、そのあとが続かない。女性のみというところに無理がある私のチームばかりか、M氏チームのメンバー探しも難航。秋の三連休はイベントが目白押しで、みんなすでにほかの予定が入っているようだ。
 4人チームのうち、各ステージに参加するのは3人。ということは、1人は自転車に乗れなくてもよいかも。ということで、関西から参加予定のJ町くんの奥さん、千尋ちゃんに白羽の矢を立てることにした。普段(身体を動かすことは)何もやってないので、と尻込みする千尋ちゃん。サポートがメインで、山歩きが少しあるだけだから、ぜーんぜん大丈夫だよ。え、やってみたい? よかった、よかった。ところで、自転車は乗れる? あ、そう。じゃあ、MTBステージのいちばん簡単なやつもちょっと走っとく? ということになったのでした(「騙した」なんてめっそうもありません)。
 レディースオンリーをあきらめ、4人目のメンバーはTAYAさんに決定。チーム名は「両手に余る花 (?)」。M氏チームのほうも、SHIGEさん、N田くんから参加の表明があり、なんと贅沢なことに全員がディスクブレーキということで、めでたく「チームディスクオンリー」の結成とあいなった。
 
◆10月某日◆
 今年は理由あって春からあまりちゃりに乗れていない。紅葉のシーズンを迎え、絶対外せない山もあるので、ツールド大●境に向けて、山サイ(=山岳サイクリング)の予定をバシバシ入れる。毎週末の山行で、なまっていた身体はだんだん起きてきたけど、忙しすぎて肝心の大●境の準備はいっかな進まない。
 これじゃいかんなと、各ステージの出走者を独断で決定し、サポートカーやチーム装備品の担当、個人装備品についてのアドバイスなど、「大●境連絡!」としてチームメンバーにそれらしく通達してみる。私のGPS(マゼラン)は2台ともかなりの骨董品なので、TAYAさんの GARMIN etrexを使わせてもらうことにする。M氏チームのほうは、SHIGEさんがGPSを持っていることを確認して安心しただけで、なーんもしてない。サポートカーすら決まってない。
 それでも、清文さんから続々と届く連絡を、「大●境威嚇資料!」として両チームのメンバーにメールするうち、みんなの士気も高まってきたようだ(ほんとか?)。
 
◆ 10月27日◆
 K坂峠に行く。全行程8時間のロングコースなので、大●境のトレーニングにもちょうどよい。イトウヒロコ、SHIGEさん、K領君も参加。SHIGEさんがGPS(etrex Venture)を持参して使っていた。そっか、最近のGPSってこんなにちっちゃいんだ。かわいいなぁ。いいなぁ。
 
◆ 10月29日◆
 通販でetrexを注文する(まさに衝動買い)。
 
◆ 11月1日◆
 いよいよ今週末。長野県北部の週末の天気予報はかなり怪しい。メンバーから、スタッドレスやチェーンは必要か、という問い合わせが相次ぐ。「たぶん大丈夫だよ」という清文さんの言葉をそのまま伝える(その言葉を信じてノーマルタイヤで行ったTAYA号と、疑い深くスタッドレスに替えて行ったN田号が、当日明暗を分けることになる、、、)。
 届いたばかりのGPSで必要な機能だけ確認してテスト。最近のGPSは感度もいいなぁ。M氏チームのメンバーに、SHIGEさんから「コンパスは全員持つようにしよう」という提案が届く。一応チームリーダーのはずのM氏はあいかわらずのほほんとしている。「みんなやる気だなぁ。オイラなんかA沼さんに会えるっていうだけで嬉しいのに、、、」そうだ、A沼さんにも会えるんだ。楽しみ〜。
 
◆ 11月2日◆
 夕方から続々とメンバーがうち(山梨県白州町)に集まってくる。SHIGEさんとJ町千尋以外のメンバーは、うちから2台の車に分乗して一緒に行くことになった。積もる話は尽きないが、家主の権限で10時過ぎに無理やり消灯。9時前に到着したK領君は、「こんなに早く寝たことないよう、、、」とぶつぶつ。
◆11月3日 3:40 a.m.◆
 起床。人数が多いので時間に余裕を見たのだけれど、4時には出発準備完了。みんなやる気だ(ほんとか?)。コンビニで食料を仕入れて、一路長野へ。星が無数に瞬いて、天気は快晴。途中休憩したSAで、アジアチャンプのチームらしき一団とちゃりを満載した車を見かける。SA出発後しばらくしてさっきの車に抜かれ、N田号が猛追するが及ばす。レースが始まる前からすでにぶっちぎられている、、、
◆6:00 a.m.◆
 日本海に近づくにつれて雲が多くなってくるが、雨や雪の気配はなし。しかし、インターまで2kmの看板とともに眼前に現れたのは、真っ白に雪化粧したK姫山。「あれですか!?」「あれですね」 なんか遊び道具を間違えてるような気がしないでもない。
◆6:20 a.m.◆
 スキー場の駐車場に到着。清文さんが笑顔でお出迎え。スタッフの中にも懐かしい顔がいっぱい。チーム関西の面々も揃っている。みんなでいきなりGPSを持ち寄ってわいわいがやがや。集合場所のポイントが主催者のデータとかなりずれているのが気になる。J町くんのGPS(いくつかの海外ラリーを生きのびたらしい、年季の入った奴)にいたっては、衛星を補足していないことが判明。おいおい、だいじょぶか?
 受付で清文さんからゼッケンやリストバンド(おー、本格的だ)を受け取り、CP通過チェック方法の説明を受ける。CP付近に置いてある(隠してある?)カードを見つけたら、自分のチーム名に印を付け、裏に書いてあるキーワードを写し取って来ること。
 千尋ちゃんをTAYA号に迎え、スタート準備。1ステは、女3人での出走となる。イトウヒロコはいつものように巨大な荷物の中から各種のウェアを引っ張り出してウェアリングを吟味している。千尋ちゃんはいたってシンプルな格好だ。マシンは清文さんからの借り物なのでばっちりのはず。これも借り物のヘルメットはちとデカいかな。不安そうな表情も見せずのんびりと微笑む彼女、実は初心者、どころか山を走るのが初体験に近い。ちょっと無謀かな、という気もするが、まあ何とかなるでしょう。装備品検査も無事終わり、スタートを待つ。
◆8:00 a.m.◆
 みんなに暖かく見送られて、一番手のスタート。それほど寒くはないが、コースはいきなり雪の自然歩道を行く。GPSと地図を持つ私が先頭、千尋ちゃんが続き、しんがりがイトウヒロコ。千尋ちゃんのペースに合わせながら、緩い登りをひたすら漕ぐ。
 後続のチームに次々に抜かれるが、マイペース、マイペース。千尋ちゃんはなかなかどうして、初心者とは思えない走り。スタート後しばらくして登りが少しきつくなった頃に一度だけ、「あの、歩いてもいいでしょうか、苦しくて、、、」と待ったがかかったものの、あとはちゃんとついてくる。丸太もちゃんと乗ったまま越えて来るし、ロックもひょいひょいっとよけて走る。おー、下りもちゃんとスタンディングしてるじゃん、、、と思ったら、サドルに座ってました。なんて長い足だ。少々の下りなら、乗ったまま突っ込んで来る(曲がれないこともある)ので、ちょっとハラハラする。
 地図上のルートは、1CP(ヒントは「忍者の洞窟」)の方角に向かってほぼ真っ直ぐに進み、1CPの手前で一度大きく右に迂回してから1CPに至る。GPSの指している1CPの方角がそろそろ左にずれてきたが、うちのチームはまず道から外れるつもりはないので、そのまま道なりに進む。
 と、前方で、チーム関西が左手の藪をがしがし登っている! やるなぁ、いきなりショートカットか? と思いきや、ちゃりは道に置き去り、、、? ショートカットする気なら、ちゃりも連れて行かないといけないのでは??? うーん、よくわからないけど、先に行くよ。
 この辺りで、先行したチームに次々に遭遇する。みんなルートを探してうろうろしている。とりあえずそのまま行ってみることにする。巨大なパイプラインに出た。そうか、地図に載ってる細長いのはこれだったのね。地図には、パイプラインを超えてすぐ右に折れるルートがマジックで書き込まれている。主催者が地図に追加している以上、これが正解ルートと思われる。見ると、パイプラインのすぐ脇には、パイプラインに沿って走れそうなスペースがある。道に見えないこともない(たぶん違うと思うが)。来た道は、パイプラインを横断した後、少し先で右に折れて下っている。
 あれっ、パイプラインの上のほうから、チームディスクオンリーが降りてきた。上? なんで上に行くの? 私が「こっちでしょう」とパイプラインに沿って下を指差すと、SHIGEさんが「でもGPSはこっちだ」と上を指差す。
 よくわからなくなってきたが、そのまま道なりに下り、道が北に向かわなければ引き返すことにする。かなり急な下り坂。引き返すのはかったるいなぁ、と思いながら下る。でも、方向は北なので、たぶん合ってるだろう。千尋ちゃんをイトウヒロコに任せてどんどん下る。道はだんだん険しくなって、歩いて降りても滑る。下のほうに道が見えてほっとした頃、チーム関西とディスクオンリーに追いつかれた。後で聞いた話だが、ディスクオンリーの面々は、パイプラインのすぐ脇をパイプラインに沿って(もちろん乗車したまま)直滑降し、藪こぎを経て正解ルートに合流したらしい。
 チーム関西のJ町くんに「チームメイト放っていったらあかんがな」と言われ、「わかってるって」と言いながら、自分のちゃりを置いて、もう一度鎖場を登り返す。千尋ちゃんのちゃりを担ぎ下ろして、ちょっと休憩。
 水平道を1CPの方角に向かって進む。「忍者の洞窟」の看板があるところで、またチーム関西とディスクオンリーに遭遇。J町くんが「ないない」と言いながら上がってきた。下には、ポイントを探しているほかのチームもいる模様。なんだか混雑しているので、とりあえずもう少し先に進んでみることにする。しばらく行くと川があったので、これは行きすぎだ、やはりさっきのところか、と洞窟まで引き返す。道にちゃりを置いて、歩いて洞窟へ。チーム関西とディスクオンリーはどこへ消えたのか姿が見当たらない。洞窟の内部をひととおり見渡し、ザックからライトを出そうとしていると、イトウヒロコがカードを見つけた。なんと洞窟の上にある! この間わずか2分。よく見つけたねぇ。カードの裏のキーワードは「ハシ」。
 道に戻り、2CP(ヒントは「トンネルの、、、」)に向かって先を急ぐ。途中、やっと1CPをゲットしてきたらしいチーム関西とディスクオンリーに抜かれる。しばらく行くと、看板が立っている分岐に出た。まっすぐ行く道と右に下る道。左のほうに折り返して登る細い道もある。看板の矢印はどの道を指しているのか全然わからない。これじゃ看板の意味まるでなし。主催者の地図では、N名滝に行く道と、発電所を経てゴールに向かう道に分かれるはず。2CPはN名滝のほうにある。スタッフがカメラを持ってやってきた。SHIGEさんの奥さんの利佳子さんの姿もあるが、「ふふふふ」と笑うだけで教えてくれない。あれ、下のほうからディスクオンリーが戻ってきた。「ずーっと先まで下っちゃったよ」と言いながら、反対の分岐のほうへ去って行った。しばらく地図を見比べた後、私たちも上の道へ。すぐ先にN名滝の看板があったので、これが正解。
 トンネルまではほとんど水平な道。トンネルの手前にいたチーム関西は、すでにポイントをゲットして、引き返すところ。ディスクオンリーはトンネル内にいるようだ。イトウヒロコと千尋ちゃんがトンネルを先に進み、私はトンネルの手前をチェック。しばらく探したが見つからないので、2人の後を追う。向こうからイトウヒロコが引き返してきた。えっ、もう見つけたの? すごいぞ、イトウヒロコ! 本人によれば、TVゲームをやってたおかげで、なんとなく隠し場所がわかるそうな、、、
 2CPのキーワードは「キク」。次は「アネモネ」か? と言ってみるが、誰にも通じない。「コインロッカーベイビーズ」(村上龍)の主人公なのに。大きな声では言えないが、ディスクオンリーに至っては、私が「ハシ」とか「キク」とか騒いでいるのを聞いて、初めてカードの裏にキーワードが書かれていることを知ったらしい。困るなぁ。
 「この先行くと、きれいな滝が見えるよ」とK領君に言われて、滝を見に行った後、再スタート。さっきの分岐を経由して、あとはひたすらゴールに向かう。舗装路に出ると風が身を切るように冷たい。TAYAさんとサポートカーの待つ駐車場に、ビリから2番目でゴール。スタッフのM松っちゃんや水沢さんが迎えてくれた。2ステは雪が多くて大変みたいよ、靴はなるべく濡らさないようにね、とM沢さんに言われるが、ご丁寧にメッシュまで付いている私の靴はこの時点ですでに中まで濡れていたのでした、、、
◆10:40 a.m.◆
 サポートカーに自転車を積み込み、スタッフの指示に従って第2ステージのスタート地点、Sヶ峰ダムへ向かう。道路は除雪されているが、登るにつれて、辺りの風景が白さを増していく。道路の除雪幅もだんだん狭くなり、すれちがう車との離合にも気を遣うようになってきた。
 雪の降りも激しくなってきた頃、2ステのスタート地点に到着。二駆のノーマルタイヤでは、駐車スペースにも入れず、サポートカーを道路に停めて、寒さに震えながらのスタート準備。清文さんの説明では、6CPを残してCPはすべてキャンセル。ゴール地点はさっきの1ステのゴールと同じ。ということは、サポートにまわる千尋ちゃんは今の道を戻ることになる。これ以上雪が積もるとちょっとヤバそう。最悪の場合はスタッフに頼る(甘えたチームだ)ことにする(結局、彼女がちゃんと運転して下りたらしい)。
 イトウヒロコは、いつものことだが、着膨れてダルマのようになっている。それで漕げるのか? 私は、ゴアガッパの上下を着て、足元にはスパッツがわりにコンビニ袋を巻いてみる。かっこいいことこの上ない。
◆11:40 a.m.◆
 だんだん激しくなる雪の中、清文さんに見送られてスタート。すぐにダムに出る。橋を渡ると、足跡は階段を直登している。ほかに道がないことを確認してから、足跡をたどる。
 険しい登りを担ぎ上げると、シングルトレイルに出た。森のなかをゆるやかに登ったり下ったり。部分的に乗車可能だが、漕ぐのも疲れる。身体はすぐにぽかぽかになった。案の定イトウヒロコが止まって服を脱ぎ出した。アンダー、長袖ジャージ、フリースベスト、ジャケット、の上にカッパを着ている。どうも彼女は「適度」という言葉を知らないらしい。下りになったら寒いからと、カッパズボンの下のオーバーパンツを脱ごうかどうか逡巡している彼女に、「脱ぎなさい」と一喝して先を急ぐ。先行チームの轍が錯綜するトレイルは、とても漕ぎにくい。TAYAさんはかなり苦労しているようだ。そういえば、TAYAさんも、去年ちゃりを組んで山サイに引きずり込んでから、山を走った回数は両手の指に満たないはず。今さらそんなことを言っても遅いので、ここはモンゴルでのラリー経験を生かして(どういうふうに?)がんばってもらうしかない。
 乗れない登りを押した後、少し急な下りになったので、ディスクのイトウヒロコを先行させる。セラミックリムが終わっている私のNブレーキは、かなり怪しい。1ステの舗装路の下りも、フルブレーキングしたままかなりのスピードが出た。雪道では、緩やかな下りなら雪の抵抗で止まるが、少し急になるとほとんどノーブレーキ状態。しかたないので、足ブレーキを使いながら何とか下って行くと、林道に出た。
 地図を見ると、このあとは延々と林道が続く。先行チームは車の轍の跡を走っているらしく、2本のラインが延びている。狭い轍に沿って漕ぐのは結構むずかしい。集中していないと、バランスがくずれて轍からコースアウトしてしまう。判断力には若干問題があるが天性のバランス感覚を持つ、元体操部のイトウヒロコは、シャカッ、シャカッ、シャカッ、と決して速くはないが確実なペースでどんどん進んでいく。私は 100mに1回ぐらいバランスを崩すので、イトウヒロコの背中が少し離れていく。と、後ろを見ると、TAYAさんは、漕ぐのをあきらめて歩いているんだか、影も形も見えない。もう2時に近い。タイムリミットの3時までにゴールするのはちょっと難しいかも、、、
 イトウヒロコと2人でTAYAさんを待っていると、行く手からバイクが走って来た。スタッフのM松っちゃんだ。ちゃり用メットをかぶってKDXというのは、かなり異様だ。大丈夫? とM松ちゃん。大丈夫、大丈夫、もう1人も後から来るから、えっ、後続のチーム? うーん、見てないなぁ。それじゃあがんばって、と去っていくM松っちゃん。そして後には、、、とてもとても漕ぎにくいKDXの轍が残されたのでした。
◆2:00 p.m.◆
 林道が送電線と何度か交差するあたりで左に折れる。しばらく行くと、なんだか見たことのある風景が、、、「ここかぁ」と思わず声が出る。去年M松っちゃんの案内で走ったあの鉄塔道だ! これを下るのか、、、この前走ったときは、もちろん雪はなかったので、階段のところは途中で降車したが、その下の激坂は全部乗って下りた。イトウヒロコと私の2人がM松っちゃんに「変態」呼ばわりされる原因となったのは、まさにこの坂。今日のコンディションでは、乗るのはまったく不可能だ。
 階段を慎重に降りていると、先行しているイトウヒロコがどんどん離れていく。よく見ると、ちゃりと一緒にお尻で滑っている。なるほど、ああすれば確かに速い。新しい遊びが面白いらしく、狂喜乱舞して転がり滑って行くイトウヒロコを見ながら、笑いすぎて声が出なくなった。私も半分滑りながら下まで降りた。2人で上を見上げると、TAYAさんははるかかなたを、ゆっくりと降りてくる。かなりつらそうだ。ちゃりと一緒に滑る技も使えないようだ。と、イトウヒロコが再び坂を登って行く。半死半生のTAYAさんからちゃりを奪い取ると、また大喜びしながら滑り出した。今度は立膝で滑っている。そのほうがすぐに立てるので具合がいいらしい。うーん、確かに普通じゃないな、こいつも。
 あとで聞くと、ディスクオンリーはこの鉄塔道をほぼ乗車したまま下ったという。「お尻で滑っている奴に負けたくなかったので、がんばって下った」らしい。こちらもかなりイカレている。
 TAYAさんがやっと歩いて降りてきたので、しばし休憩。この先を下ると6CPがあるはずだ。地図をよく見ると、1ステでわかりにくい看板があったあの分岐がチェックポイントになっている。荒れた道を慎重に下っていくと、雪がみぞれになり雨に変わった。見慣れた看板のある分岐に出たときには、かなりの降りになっていた。
 雨の中、CPを探す。看板の裏? 頭上の木? 今回はイトウヒロコの勘もすぐには働かないらしい。ふと思いついて、分岐の先を少し下ってみた。と、右下のほうに白いヒモが!
 「あった〜」と叫んでカードを裏返す。キーワードは「ガリバー」。あ、アネモネが飼っていたワニの名前ね。寒ーい下りを我慢して、J町千尋と暖かいカップラーメンが待っているはずのゴールへ急ぐ。
◆4:00 p.m.◆
 本降りになってきた雨の中、ゴールに到着。タイムリミットに間に合わなかったので、3ステージはキャンセルとなる。千尋ちゃんがやかんにお湯をわかして待っていてくれたが、早くしないと4ステのスタートにも間に合わない、と言われて、あわててちゃりを積み込む。あまりにも寒いので、カップスープだけすすり、車に乗り込んで出発。スタッフからは、まず3ステのスタート地点(ループステージなのでゴール地点でもある)まで行って、清文さんの指示に従うように言われている。
 地図を見ながらT隠方面へ向かう。高度が上がるに連れて雨はまた雪に変わり、とうとう路面にも積もり始めた。雪道の運転経験がないTAYAさんはかなり不安そうだ。一応、私のハイラックスのチェーンを持って来たので、いざとなったら無理やりはめるしかない。路面が真っ白になったので、路肩に駐車してしばしの作戦会議。
 私とイトウヒロコとちゃり、ならば何とでもなる(する)。が、TAYAさん、千尋ちゃん、そしてこのTAYAさんの真新しいハイエースにリスクが及ぶということはあんまり考えていなかった。でも、このまま尻尾を巻いて帰る、というのも悲しすぎる。チェーンを付けたら、とりあえず先に進んでいいかな? ということで、チェーンの準備。イトウヒロコとチェーンを1つずつ持ち、吹雪いている車外に飛び出す前に視線を交わす。準備OK? それを見ていたTAYAさんが一言。なんかこの2人、目が輝いているんですけど、、、
 チェーンと奮闘していると、後続チームのサポートカーとスタッフ軍団が通りかかった。M松っちゃんが降りてくる。あっ、チェーン付けてるの? うーん、だいじょうぶだと思うんだけどなぁ。俺の車なんかスリックだし。だいじょうぶだよ、という言葉に促されて、まだ不安そうなTAYAさんを無視してチェーンなしで進むことにする。
◆5:00 p.m.◆
 なんとか3ステのスタート(=ゴール)地点に到着。清文さんから指示を受ける。現在、チーム関西とディスクオンリーがまだ3ステのコース内にいて、連絡が取れない状態だと言う。後で聞いた話では、M松っちゃんが心配して捜索に入ると言い張ったそうだが、この2チームの面子を多少なりとも知っている清文さんが止めたらしい。そうそう、私も同感です。まず大丈夫でしょう、アノヒトタチなら、、、
 ここでちょっと脱線して、後で清文さんから「かっこよかった、ホントかっこよかったよ」というお褒めの言葉をいただいたチームディスクオンリーの3ステの軌跡を(聞き書きですが)たどることにする。
 このチームディスクオンリー、わけのわからん奇声を上げて走っていくチーム関西の面々に比べると、一見地味でまじめそうだが、その実態は相当アブナイ。「CPを見つける」とか「レースに勝つ」とかいうことはかなりどうでもよくて、とにかく下りが面白ければそれでよし、激坂を乗って下ることが最も重要なテーマ、というチームである。なにせチームの威嚇台詞が「前転か?いやラインは見えた!行けるぞ!」である。全員がディスクブレーキというのは伊達ではない。下り命、ゆえのディスクなのだ。唯一理性を保っているのが、いちばん年長のSHIGEさんで、1ステ、2ステは、彼がGPSと地図を持って先導していたため、一応CPを探すという体裁は保っていた。
 そしてぎりぎりでスタートに間に合った3ステは、そのSHIGEさんがサポートに回った。つまり、犬ぞりレースのマッシャーがいなくなった状態というか、引率者がいなくなって、遊びたくてしょうがない子供が3人残された状態で、3ステージのスタートが切られた。
 林道を延々と登って彼らが1CPの分岐に到着したとき、そこでは先行する2チームがCPを探していたが、降り積もる雪にもはばまれて、なかなか見つけられずにいた。彼らも一応まじめに探した、と主張している(ほんとか?)。しかし、この時点での彼らの最重要テーマは、「下りが超面白いというこのステージで、主催者が意図したルートを全走破すること」にあったため、すぐにCPを後にした。しかも、その後きわめて常識的な判断で撤収したほかのチームとは逆の方向、つまりループコースを全部まわるべく、その先の下りに突入したのだ。
 明るいうちに下りに入ってしまえば、あとは行くしかなくなるだろう、という作戦は当たり、その先の下り(雪に埋もれたロックの激坂)は「とても楽しく下れた」らしい。そのうちに暗くなってライトを付けての走行になったが、「それはそれでとても楽しかった」らしい。
 いやぁ、やっぱりディスクだねぇ、すばらしいねぇ、と3人で大喜びしながらひたすら下り、2CPを目指す。CPまでの距離がだんだん少なくなり、キャンバーを慎重に走りながら、ふと気が付くと、CPが後ろ方向になっていた。GPSを預かっていたK領君は「一応5分ぐらいは探そうと思って」戻ろうとしたらしいが、先行するN田君はすでに行ってしまっている。虫食いのヒントもまったく解けないため、そのまま先を急ぐことに。「だって、早く帰らないと次のステージが走れなくなるから、、、」とはM氏の言い訳。ま、その言葉どおり、ちゃんと4ステのスタート 20分前には、みんなと合流したわけですが、、、
◆5:30 p.m.◆
 さて、場面は変わって、清文さんの指示に従って雪道をなんとかたどりついた温泉の駐車場。TAYAさんが、きっと夜のステージはキャンセルでここが宿に違いない(希望的観測!)、と言うので、そうかもねーと答えたが、私はきっと違うだろうな、と思ってました(ごめんなさい)。
 駐車場には、先行チームのサポートカーが駐まっていたが、スタッフの姿は見当たらない。ザンジバルのサポートカーのドアを叩いて、これからどうなるんですかね、と聞いてみる。これから夜のステージが始まるのでここで待てばいいんじゃない、とのこと。キャンセルなんていう気配は微塵もない。
 しかたがないので車の中で待機していると、どこからともなく I-MIXのJ田さんがやって来た。スタートまでまだまだ時間があるみたいだから、無駄に車の中で待つより、お店であったかいもの食べたほうがいいですよ、とのアドバイス。うーん、確かに別世界のように明るい店の中も、あったかいそばも魅力的だ。しかし、もしこの後がランのステージだとすると、食後に走ることになるしなぁ、、、と迷っていると、スタッフの車が続々とやってきた。
 この時点でまだ到着していないチーム関西とディスクオンリーを除く5チームが集まり、M松っちゃんの説明を聞く。清文さんの指令では、4ステはキャンセルとし、もう十分というチームは宿に直行、走りたいチームだけが5ステージを走ってもらうということだが、M松っちゃんの判断では、どんどん悪化するコンディションの中で5ステを強行するのは危険なので、このままみんなで宿に直行したほうがよいと思うとのこと。事実、エントラントのサポートカーだけでなく、スタッフの車もノーマルタイヤが多く、このままぐずぐずしていると動けなくなる可能性が高い。
 エントラントの様子を伺うと、もうやめたそうなひともいれば、まだまだやるぜ、という感じのひともいる。ちゃちゃばっかり入れてる金メダリストもいましたね。 I-MIXのJ田さんは、2ステはサポートで3ステがキャンセルだったので、1ステしか走っていない、このままでは終われない、と悔しそうだ。
 このあたりのエントラントとスタッフのやり取りが清文さんに伝えられ、それを横で聞いていたA沼氏が、「何が何でもヤル、ぜってぇヤル、って言っているのはセキマミコにちげぇねぇ」と言ったらしいが、それは真っ赤な濡れ衣です。私自身は、主催者がヤルと言えばもちろん走るし、やめますと言えばその判断に従うつもりだった。ただし、この後のステージは、イトウヒロコと私だけで行くと独断で(イトウヒロコの意志を確認しようと思って探したが見つからないので)決めた。とにかくTAYAさんの車が無事に宿に着くことを優先して、TAYAさんには千尋ちゃんを連れてこのまま宿に直行してもらう。 1名足りなくなるので、賞典外ということで(どうせ勝負は関係ないので)なんとか走らせてもらおうと思っていた。
 ただ、スタッフにこれ以上負担をかけるのは心苦しいし、5ステはかなりのロングステージで、このコンディションでは何時間かかるか想像も付かないらしい。ならば、5ステはあきらめて、4ステをやるというのはどうか。4ステならランのループステージで、ここからスタートしてここに戻るわけだから、スタッフは最小限で済む。ノーマルタイヤのスタッフはすぐに宿に向かい、動けるスタッフだけ残って、あとはエントラントで何とかする。タイムリミットを設けて、CPが見つからなくても切り上げる。
 ためしに、サポートカーが積雪対応のチームは? と聞いてみる。四駆のスタッドレスという完璧装備が1チーム( I-MIX)。二駆だけどチェーンがあるから大丈夫というのが1チーム(菅山海業)。ノーマルタイヤの二駆だけど大丈夫、という根拠レスなチームもいる(ザンジバル)。うちのチームはサポートカーだけ先に帰すのでOK。残り1チームは迷い中。じゃ、4ステのランをやろう、ということで話がまとまりだした。
 ノーマルタイヤのスタッフと、うちのチームのサポートカーは宿に直行すべく出発の準備。4ステの地図とCPの資料は清文さんが持っているので、動けるスタッフが大至急取りに行く、ということで、スタートは 7:30と決まった。この隙をついて、M松っちゃんが全速力でCPのカードを置きにいったらしい。雪の上に足跡を付けないように「キツネ走法」で(それって何?)。
 さっきから姿が見えなかったイトウヒロコが現れた。みんなが真剣に討議しているときに、お店で「なめたけ汁」を食っていたらしい。なんて奴だ。今後の予定を伝える。ランなら千尋ちゃんも出ればいいのに。それもそうだね。どうする、千尋ちゃん。えっ、でも、足を引っ張りそうだから、、、 それは大丈夫。だって私がほとんど走れないんだから、歩くよ。じゃ、出よっかな。ということで、1ステに続いて「女の子」チームの結成となる。こんな雪の中を、しかも夜走るなんて、神戸じゃなかなか体験できないから、なんて、実は出たかったのね。
 宿に直行するスタッフの車と、TAYA号、そして結局キャンセルを決めたチーム F.G.L.A.のサポートカーが宿に向けて出発した(実は彼らにもこのあと苦難のオプションステージが待ち受けていることを、この時点では誰も知らなかった)。4ステ終了後の宿までのライドを3人分確保しようと走り回っているところに、ディスクオンリーのサポートカーが到着した! よかった、これで乗せてってもらえる。3ステを走りきった3人は少し消耗しているが、休養十分のSHIGEさんは、ヤル気満々。3ステのゴール地点で待つ間にGPSの測地系をTOKYOに変えてみたら、主催者のデータとピッタリあった、こんどこそイケルはず、と張り切っている。
 GPSにCPを入力してスタートを待つ。地図を見ると、CP付近は道がない。ということは、GPSを頼りに藪こぎか? うーん、きびしいなぁ。SHIGEさんの言葉を信じて、測地系は TOKYOに変えてみた。
◆7:30 p.m.◆
 車のライトに照らし出されたスタートラインに、エントラントが並び始めた。ラインに手をついて構えるひとあり、円陣を組んで奇声を上げるチームあり、異様な盛り上がりだ。スタート30秒前。おっと、ディスクオンリーがまだ並んでないぞ。早く来ーい。仕切り直して30秒前、10秒前、スタート!
 なんといきなりみんな全力疾走だ。マジですか。マラソンランナーのSHIGEさんが、後ろからあっという間に私たちを抜き去って先頭のほうへ飛んでいった。M氏があわてて追いかけている。「みんな速すぎー」とK領君がぼやきながら追いついてきた。
 走っていると言うよりは早足で歩いているに近い私たちは、すぐにおいていかれた。ま、しょうがないね。分岐では、先行チームの後を追って左のトレイルへ。走るにはちょっとつらい登りをひたすら進む。しばらくして、道が途切れる。足跡を追って回り込むと別の道に突き当たった。GPSに従ってT字路を左へ曲がる。
 ちょっと待って、これ帰りにわからなくなるよ。そうだね、まっすぐ行っちゃいそうだね。なんか目印つけておこう。その辺からアーチ状の枝を拾ってきて道を塞ぐように置き、葉っぱを盛り上げた。これでわかるかな。たぶん。
 その先も道ははっきりしている。CPの方向がだんだん右にずれ始めた。右に入っていく踏み跡を探しながら進むと、ほかのチームの姿が見え始めた。みんなCPを探してうろうろしているようだ。このあたりで、引き返してきたディスクオンリーとすれ違った。K領君が「タオル落としてね」とわざとらしく言い訳しているし、なんだかみんなの顔がにやついているので、これは見つけたな、とわかる。
 さらに進むと小さな流れを横切る。ヒントには「川のそば」とあるけど、この小さな川のことじゃないよね。CPの方向は真右を指している。これまでのステージでの経験からGPSをあまり信用していなかったし、この暗闇の中、藪に突入するのもためらわれる。イトウヒロコがライトであたりを照らして亀の甲羅に似た石を探している。この川に沿って行ってみようか? うーん、どうしよう。
 今から思えば、思い切って藪にはいればよかったのかもしれない。結果的には、同じ機種、同じ測地系のディスクオンリーが、GPSで 0mの地点まで行ってみようという作戦で見事にCPを見つけたらしいので、私たちもGPSを信じて進めば、たどり着けたかも。道を見失うのが怖ければ、ひとりが道に残ってライトを照らし、そのライトを常に見失わないようにしながら藪こぎする、という方法もあったはず。私たちのペースでは時間内に見つけるのはまず無理だろうと半分あきらめていたのがいちばん悪かった。
 結局、道をはずれて藪に入るのはやめることにして、しばらく先で、ほかのチームの後を追ってかすかなトレイルを右に入る。大きな川のそばまで行ってしばらく探したが、あきらめて引き返すことにした。右に入ってから道なりに来たつもりだったが、途中で踏み跡がよくわからなくなった。まずい、ここまで来る道をあまり覚えていない。先行チームがいたので気が緩んでいたようだ。うろうろしていると、「女の子チーム、大丈夫?」という声がする。「迷子です!」と叫ぶと、「こっちだよ、おいで」。ザンジバルだ。CPが見つからないので引き返すところらしい。助かりました、と後についてもとの道に戻れた。
 これで一安心。ザンジバルがタイムリミットを気にしているようだったので、もう大丈夫です、と先に行ってもらう。ペースが遅いんだから、もうちょっと早く引き返すべきだったな、と思いながら先を急ぐ。そろそろ目印のところかな。あれ、前から誰か引き返してきた。ザンジバルだ。道が違うよ、この先行くと川に出るけど、あんな大きな川は渡ってない(後で聞くところによると、これは主催者が期待したとおりの迷走、そして期待したとおりの台詞だったらしい)。えっと、右に入るところに木を置いて目印付けといたんですが。そんなのみんなに蹴飛ばされてるんじゃないの、とザンジバルはずんずん引き返していく。おかしいなあ、まだ目印見てないけどなぁ、と先に進むと、あった! アーチ状の枝が(確かに踏み潰されていましたが)。
 ザンジバルはもう姿が見えない。「ここでーす」「こっちでーす」と叫んでいると、走ってきた。こんなとこ、わかんないよな、ありがとう、と感謝されて、ちょっといい気分。CPは見つけられなかったけど、ま、いっか。
 ゴールが近づくと、M松っちゃんが向こうから走って来た。私たちで最後ですか? そうだよ。走って、走って。スタッフが拍手で迎えてくれた。ツールド大●境のゴールだ。ライトがまぶしい、、、
 

想定外の雪に邪魔されましたが、十二分に、こころゆくまで、楽しませてもらいました。
どのステージも主催者のアツイ想いが伝わってくるようで、全コース走れなかったのはほんとうに残念です。
でも、今回使えなかった、ということは、次回に使える、ということでもあるので、まあ、楽しみを小出しにしたと言うことで、、、
清文さん、そしてスタッフのみなさんへの感謝の気持ちを込めて、それからヌブーA沼氏の憎まれ口(=最大の褒め言葉?)への返歌として、このレポートを贈ります。レポート中に勝手に出演させてしまった方々、失礼な点がありましたら、この素敵なイベントを共有した同志ということで、どうかお許しください。
Thank you, and see you again.

 
    by 「がくらんばんちょ」こと RIN こと Mamiko SEKI